奈緒の水筒 01
奈緒は一本の水筒を前に悩んでいた。
いや、悩んでる場合じゃないのはよくわかっていたのだけれど、なかなか踏ん切りがつかないのだ。
今なおダラダラと滲み続ける汗は肌をつたって服を濡らす。
身動きができない瓦礫の部屋で、奈緒の呼吸音と地響きだけが続いている。
奈緒は一本の水筒を前に悩んでいた。
いや、悩んでる場合じゃないのはよくわかっていたのだけれど、なかなか踏ん切りがつかないのだ。
今なおダラダラと滲み続ける汗は肌をつたって服を濡らす。
身動きができない瓦礫の部屋で、奈緒の呼吸音と地響きだけが続いている。
本当に運がなかったとしか言いようがない。
学校から帰る途中、水筒を部室に忘れたことに気がついた。
中身は既に空っぽであったが、あれが無くては明日困るし、
夏の暑さで腐ってしまうのも勘弁だった。
奈緒が古い部室等に入り、水筒を掴み上げたところでそれは起こった。
ズッという揺れ。けたたましい音と同時に奈緒の体は中に浮き、そして気を失った。
気がついた時、奈緒は暗闇の中にいた。
大地震が起こっていた。
幸いにも倒れ込んできた巨大なロッカーが反対側の壁にぶつかり、
丈夫な屋根を作ってくれたことで奈緒は助かった。
しかしながら手探りでどちらへ進んでもそこは瓦礫の山で、奈緒はどうにも動けそうになかった。
おしっこしたい。
その願望は少しずつ強くなっていた。
学校を出る前、水筒を軽くしようと一気飲みしたのがたたったか、
狭くてくらい瓦礫の中で奈緒は必死におしっこの穴を押さえていた。
こんなところでおしっこはしたくないし、何より締め切ったここが臭くなるのが嫌だ。
しかし奈緒の気持ちとは裏腹に尿意は増していく。
限界だと思った。その時、奈緒は自分が持っている物に気づいた。
そう、それはここに来た理由。
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